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教育コラム 2009. 07.
 
  応答する力
   
   ある日、庭先に黒白の子猫がやってきました。
 小さな森のどこからか現れました。野良猫です。家人に気づくと、すぐに森の中に消えていきました。
 次の日、またその子猫がやってきました。冷たい雨が降っていました。
 家人が鰹節をあげようと、出て行くと、またすぐに森に消えていきました。
 その次の日、朝、子猫の鳴き声がしました。窓から庭をのぞきましたが、姿は見えませんでした。雨はまだ降り続いていました。
 その日の夕方、家人が庭に出ると、植え込みのなかで、子猫は冷たくなっていました。
 家人は、小さなお墓をつくり、子猫を弔いました。
     
   子猫は、三度、わが家の庭先に現れ、たった一度だけ、鳴きました。
 その声は、きっと助けを求める声だったのだと思います。
 生まれて数ヶ月でしょうか。おそらくはじめて出した、人に助けを求めたのではないでしょうか。  しかし、その小さな声に、だれも応えることができませんでした。 
   
   助けを求める声は、かならずしも「助けて」とは聞こえません。
 それは、そっけない声だったり、いらだちった声だったり、怒った声だったりします。
 相手を無視するような態度だったり、ほっといてくれといわんばかりの態度だったりします。
     
   ひとは、いくらうっとおしがられても、そうした声になっていない声を聴くべきだと思います。
 ひとの声、命あるものの声を聴き、応答する力――それは、「ああしておけばよかった‥‥」という悔恨を完全には遠ざけませんが、 日々の優しく豊かなかかわりをつむぎだします。
 そして、その優しく豊かなかかわりが、声に応答する力をふたたびつちかっていきます。
 
(校長 田中智志)
 
 
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