山梨学院小学校 卒業式 学校長式辞(2018年3月21日)

「探究:ホーキング博士」

 卒業生のみなさん、卒業おめでとうございます。保護者の皆様、本日は、お子様のご卒業まことにおめでとうございます。

 先日行われたみなさんの国際バカロレアPYPエキシビジョン。とても感動しました。卒業研究ではそれぞれ自分のテーマを探究し、見ている側にも分かりやすいプレゼンテーションになっていました。領域での学習成果を展示しているブースででも、質問に対して、探究してきたことをきちんと自分の言葉で説明していました。自律、思考、表現、共生という学校目標が、世界レベルで形になっていると、誇らしく思えました。

 いまから、旅立つ9期生のみなさんに、小学校の校長として最後の授業をしたいと思います。テーマは、みなさんが行ってきた「探究」です。

 今日からちょうど、一週間前の3月14日。世界的な宇宙物理学者が亡くなりました。スティーヴン・ホーキング博士です。76歳でした。ニュースになっていたので、名前を聞いたことのある人もいるかもしれません。

 彼は、イギリス生まれで、オックスフォード大学に入学した後、21歳のとき、筋肉が縮まり動かなくなるALSという難病にかかります。そのとき、医師には、余命2年と言われました。けれど、その後も、決して宇宙の探究を止めませんでした。そして、彼はだれも思いつかなった新しい理論を次々に発表し続けました。

 私が、ホーキングという名前を知ったのは、私が大学生のときでした。『ホーキング、宇宙を語る』という、世界でベストセラーとなった本を書店で見つけたのです。書かれている内容は、あまりにスケールが大きすぎて、想像しにくいこともありましたが、ワクワクしながら1枚1枚ページをめくったのを今でも覚えています。宇宙が生まれる前は、時間も空間もない「無」の世界だった。137億年前、極めて小さな宇宙が生まれた。それは、1ミリの一兆分の1よりも小さい点であった。その中に何千億個の銀河と時間と空間が詰まっていた。それが、「ビックバン」といわれる超大爆発を起こし、1秒後には、宇宙が誕生し、時間と空間が現れた。そして宇宙空間はいまも徐々に広がっている。みなさん想像つきますか? 私はその事実を知った時には、言葉を失いました。

 1秒で出来上がった宇宙空間は変化を繰り返し、46億年前に太陽系が生まれ、38億年前に地球上に最初の生命が生まれる。その生命が進化して私たちへと至る。驚くべきことに、最近の宇宙の観測結果からは、人間と銀河は97%同じ物質からできていることが明らかとなっています。私たちの起源は無から生まれた一つの点から始まっているんです。私たちの中には、137億年の宇宙の歴史が詰まっていることになります。

 ホーキング博士は、その後も次々に宇宙の常識を覆す理論を発表していきます。よくSF小説に出てくるブラックホール。卒業研究でブラックホールの研究をしていた人もいましたね。宇宙の墓場といわれる巨大な穴は、星も光もすべてのものを吸いこむとされていました。もし、私たちが宇宙船に乗ってそこに飲み込まれれば、すべてがなくなってしまいます。しかし、ホーキング博士の最新の理論では、抜け出すことが可能であるといいます。ブラックホールの強大な穴に吸い込まれたら、この世界には帰って来れないが、そこに繋がっているもう一つの宇宙にたどり着く可能性があるそうです。そうなんです。私たちのいる宇宙とは別に、たくさんの宇宙があるのです。ホーキング博士はインタビューで、「私は宇宙旅行の物語が大好きですが、帰って来れないので自分では行きたくないですね」と語っていました。

 宇宙物理学の難解な記号でなく、私たちにもわかるような言葉で、最新の宇宙理論を伝えてくれたホーキング博士。彼の不屈の宇宙の探究と、わかりやすい言葉のおかげで、私たちの宇宙のイメージは大きく変わりました。

 余命2年の宣告から50年以上、彼は宇宙を探究し続けました。体は動かなくなり、言葉を失い、何度も死の縁に立ちながらも、どうやって彼は、探究しつづけることができたのか。彼は、三つのメッセージを私たちに残しています。

 一つ目は、星を見上げること。
 ホーキング博士は、「星を見上げなさい。足元をみるな」といっています。彼は、絶望の中にあっても、絶えず前を向いていた。彼はこうも言っています。「できないことに目を向けるのではなく、できることに集中してください」と。彼の体は動かなくなっていったけれど、頭と心は使うことができました。残された能力を最大限つかうことに努めました。死と隣り合わせの状態でも、いつも宇宙に夢を馳せました。彼の夢は「宇宙を完全に理解すること」でした。それは容易なことではありませんが、それでも彼は、その夢を抱き続けました。 星を見上げること。彼の探究を支えたのは、いつも彼が、どんな状況であっても持ち続けた夢です。

 二つ目は、絶対にあきらめないこと。
 探究は平坦な道ではありません。ホーキング博士にとってもそうでした。彼は、探究についてこう言っています。「行き詰っても、怒ってはいけない。その時は、何が問題かを考え、他の方法を試す。前に進む道を見つけるのに何年もかかることもある。ブラックホール放射理論は、29年かかった」と。探究は、1年で終わるもののあれば、時には、何十年もかかるもののあります。 絶対にあきらめないこと。彼の探究を支えたのは、何年かかっても、失敗しても、いつもチャンレンジし続ける心です。

 三つ目は、愛を捨てないこと。
 障害をもつホーキング博士には、彼を支える家族がいました。余命2年を告げられた翌年には、学生時代に恋人だったジェーンという女性と結婚します。彼女はいつも彼を支えました。彼女との間には、3人の子どもにも恵まれました。子どもたちの存在も彼を支えました。彼の探究は、いうまでもなく、家族という愛の支えがあったから可能でした。この話は、『博士と彼女のセオリー』という映画にもなっています。  愛を捨てないこととは、いうまでもなく愛する人を大切にし、感謝することという意味です。ですが、もう一つ意味があります。それは、ホーキング博士の探究は、愛する者のための探究でもあったということです。彼は、宇宙物理学の研究に留まらず、AI、環境問題、人類の未来といった問題にも積極的に発言しました。それは、自らの研究が愛する者たちが幸せに暮らす未来につながってほしいと、考えていたからだと思います。
 愛を捨てないこと。探究を支えたのは、愛するものたちへの感謝であり、愛するものたちの未来の幸せに貢献したいという思いです。

 みなさんは、ホーキング博士のような長年に渡る宇宙の探究は行えないかもしれません。ただ、探究は、これからの至る場面で必要となってきます。星を見上げること、絶対にあきらめないこと、愛を捨てないこと。ホーキング博士がくれたメッセージをもとに、中学生になっても、大学生になっても、社会にでても、探究し続けてください。

 以上で、最後の授業を終わります。

<参考文献>
岡田昭人『オックスフォードの自分を変える100の教え』PHP、2016年
Science Higher education profile Return of the time lord
[https://www.theguardian.com/science/2005/sep/27/scienceandnature.highereducationprofile]

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