教育コラム 2014.10

教育の存立条件

 近年、日本でも「ダイバーシティ」を教育の理念としてかかげる人がいます。ダイバーシティ、つまり多様性は、30年以上前から、アメリカ社会で唱えられてきた教育の理念です。「子どもたちのさまざまな学び方・生き方を承認し支援すること」です。

 それは、日本でいえば、たとえば、不登校の子どもたちが集まる「フリースクール」に行くことも、学校教育法が定める普通の学校に行くことも、どちらも教育を受けるという選択肢の一つとして同等に承認する、という考え方です。

 こうした考え方を批判する人もいます。もっと踏み込んで考えるべきだ、と。すなわち、ただフリースクールを教育の選択肢として承認するだけでなく、そこで子どもたちが求めていることも承認すべきだ、というのです。すなわち「ありのままの自分の学び」を受け容れてくれる「共同体」としての学校を 承認するべきだ、と。

 一見すると、正しいことをいっているように思えます。通常の学校に居場所がなかった子どもたちは、まさに「ありのままの自分の学び」を受け容れてくれる場所を求めているでしょうし、そこが相互に助けあう「共同体」あれば、嬉しく思うでしょう。

 しかし、この「ありのままの自分の学び」の受容も、相互に助けあう「共同体」も、フリースクールのなかでは実現できても、一歩、その外に出れば、ほとんど実現不可能です。社会は、社会的に必要な人材を求め、機能的な組織を形成するからです。

 教育を語る人がすべきことは、心地よく響くけれども、夢想でしかない理想を掲げ、その夢想に寄りかかって現実の教育政策を非難することではありません。どんな情況で、子ども一人ひとりは、本来的かつ固有的に生きられるのか、そして、どんな思考のもとで、真に人と人が助けあい、気遣いあう場所が形成できるのか、その存立条件を探求することです。

教育顧問 田中智志
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