教育コラム 2016.07

負の感情が暗示するもの

 「思う」とは、どういうことでしょうか。未来を思う、過去を思う、自分を思う、他者を思う、‥‥。いろいろな「思う」があります。たとえば、「自分が他者にした行為をふり返る」という「思う」を取りあげてみましょう。いわゆる「反省」です。

 人が反省しているとき、その人の思いは、すでに感情に彩られています。たいてい、負の感情です。悲しみ、怒り、悔しさなどです。この負の感情が、心に浮かぶ「自分」「他者」「行為」などにまとわりついています。そして「自分」「他者」「行為」を否定的に意味づけます。「ダメな私」「不快に感じる人」「大変な失敗」というように。

 こうした否定的な意味づけ、負の感情は、なかなか消えてくれません。だから、アドヴァイザー、コンサルタントみたいな人から、「大事なのは、これからどうするかですよ」と言われても、なかなか気持ちは晴れませんし、「心を強くもちましょう、そのための練習をしましょう」と言われても、簡単にはできません。

 私は、ほとんどできないことをしようとすることよりも、端的にこの意味づけ、感情を認めてしまうことを、提案します。というのも、そうするとき、自分のなかに新しい「私」が生まれるからです、その「私」は、「大変な失敗」で「人を不快にさせた」「ダメな自分」ではありません。ただよりよく生きようとする「私」です。

 この新しい「私」は、「失敗」からも、「自分」からも、そして「他者」からも、自由です。いわば、すべての意味・価値から自由です。この新しい「私」にあるものは、ただ世界に広がる感覚だけです。たとえば、遠くの山々の緑、高い空の青、流れる風の爽やかさなどを感じる感覚です。過去をふり返っても、感じられるのは、優しい笑顔、真摯な真顔などです。

 負の感情は、さっさと捨てるべき「ムダな考え」ではないと思います。それは〈よりよく生きようとする〉「私」の現れではないでしょうか。そして、そのことを知ることこそ、負の感情を乗りこえることではないでしょうか。

教育顧問 田中智志
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