教育コラム 2018.03

経験を豊かにするもの

 何かをよく知るためにも、何かがよくできるためにも必要だけれども、説明できない経験があります。言葉で説明しても、言葉は、ザルのようなもので、大きなかたまりは掬えても、小さなかたまりや、流動的なものは、掬えません。経験は、言葉では完全に再現できないのです。
 むろん、経験をできるだけ言葉で表現することは、大切なことです。
 たとえば、算数の問題の解き方は、「わかった」と思っていても、そして実際に問題が解けても、しばらくすると、「あれっ、どうするんだっけ?」とわからなくなります。それは、経験を、大体でもいいから、言葉にしていないからです。経験がその象りを失ってしまうからです。
 ですから、いちばんいいことは、「わかった」と思ったら、それをだれかに説明することです。「〇〇だから、△△になって、‥‥」というように。言葉はザルだけれども、経験を掬っておくと、その象りを保つことができます。
 完全に言葉にできない経験、そしてほっとくと象りを失ってしまうその経験を増やせば、知ることもできることも増えていくと思います。
 では、どうすれば、この経験を増やし豊かにすることができるでしょうか。
 いろんなことをたくさん経験すればいいのでしょうか。それとも、選りすぐられたことを経験すればいいのでしょうか。
 じつは、どちらでもいいのです。大事なことは、子ども自身が夢中になることです。そして、夢中になるためには、子ども自身が「なんとかしたい」と熱く思う課題が必要です。
 夢中に課題に取り組むとき、子どもは、その相手(算数であれ、国語であれ、機械であれ、粘土であれ)と会話します。相手の言っていることがわからなければ、わかりたいと思い、あれこれ調べます。こうしたらどうかな、と工夫します。この専心にこそ、経験を豊かにする秘密があります。

教育顧問 田中智志
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