教育コラム 2018. 12.

感動する心

 人は、どうして音楽を聴くのでしょうか。また、小説を読み、映画を観るのでしょうか。人は、だれに教えられることなく、自然に「感動」を求めているように思えます。わくわくする、ドキドキする、心がおどる、心がふるえる、といった経験を求めているように思えます。

 「名曲」「名作」とか呼ばれる作品は、いいかえれば、人をより大きく深く感動させる作品、といえるでしょう。
思いつくままに挙げれば、たとえば、ベートーヴェンの「第九交響曲」や、ショパンの「幻想ポロネーズ」などは、名曲でしょう。また、近年、映画の題名にもなってあらためて注目されたクィーンの「ボヘミアン・ラブソディ」も、また「ウィー・ウイル・ロック・ユー」も、現代の名曲といえると思います。
 名作も、たくさんあります。たとえば、カミュ『異邦人』、ディケンズの『クリスマス・キャロル』、ガルシア=マルケスの『百年の孤独』など。教育にかかわる作品としては、ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』、有島武郎の『一房の葡萄』をあげたいと思います。

 名曲に比べると、名作がもたらす感動は、かならずしも快感をともないません。おそらくそれらが意味・価値、対比・対照をともなうからでしょう。たとえば、エリ・ヴィーゼルの『夜』を読むと、心が激しく深く揺さぶられますが、それは、心地よさのかけらもない、感動です。この自伝的小説で描かれているのは、強制収容所のなかで、気高いもの、すなわち人らしさ、親への愛、そして神の信が、ことごとく喪われていくことです。
 たとえば、かけがえがないと思ってきた親が老い、衰えるとともに、主人公の少年は、親を鬱陶しく感じるようになります。人間性、愛情、信といった気高いものが壊れものでもあるということを、この作品は如実に示しています。

 ところで、哲学・思想の本にも、名作があると思いますが、ふつう「名作」とは呼ばれません。哲学・思想は、作りものではなく、真理を語るもの、と見なされてきたからでしょう。しかし、哲学・思想も、もともと「驚異」を感じる心が紡ぎ出したものです。つまり、「すごい」という感動が、哲学・思想の出発点です。

教育顧問 田中智志
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