教育コラム 2019. 06.

「贈る/与る」の関係

    私たちの世界は、さまざまなテクノロジーから成り立っています。ふだん使っているスマホも、パソコンも、クルマも、電車も、炊飯器も、冷蔵庫も、そうです。

    テクノロジーは、物質のはたらきをうまく利用して、素手ではできないこと実現する知識・技法です。生身の身体を使っているだけではできないことを実現するものです。どんなにがんばって走っても、時速30キロがせいぜいですが、クルマにのれば、かんたんに100キロで走れます。

    『技術は嘘をつかない』という言葉があります。技術畑の人、エンジニアがよく使います。この言葉は、「テクノロジーは願いを聞いてくれない」、といいかえられます。エンジンに向かって「壊れないでくれ」といくら願っても、エンジンは願いを聞いてくれません。一生懸命に作った機械も、人の願いではなく、物質のはたらきに、完全に従います。

    人にできることは、物質のはたらきにどこまでも寄り添い、物質になったような気分で、物質のはたらきを利用することだけです。カーレースの世界では、どんなにすぐれたドライバーも、クルマが壊れてしまえば、リタイアです。パワーユニットが他のチームのそれよりも非力だったら、けっして勝てません。そして、ネジを一つ締め忘れただけで、終わりです。

    壊れた機械にどんなに心を込めて祈っても、機械は直りません。多くの人が多くのお金と労力を注いで作った機械も、設計に問題があれば、動きません。完全に作られていないなら、壊れます。物質のはたらきに、人の勝手な想いは通じません。むろん、権力も権威も矜持も通じません。「誇りをかけて挑んでも」「必死で頑張っても」無駄です。

    物質のはたらきに通じるのは、物質に寄り添うという態度だけです。どこまでも物質の立場に立って、その力を使わせてもらう、というスタンスです。そうすれば、物質のはたらきは、私たちに途方もない力を贈ってくれます。私は、この関係を「贈る/与る」の関係と呼んでいます。

    思い通りにならないのは、相手がわるいのではなく、相手によりそわない自分がわるいのだ、と物質は、教えてくれます。

教育顧問 田中智志
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