教育コラム 2020. 12.

生命のモラル

    20世紀を代表する哲学者の一人が、アンリ・ベルクソン(1859-1941)です。フランスのパリに生まれ、パリで死んでいます。そのベルクソンは、一九一九年の『精神のエネルギー』において、次のように述べています。

    「成功する自信のなさにまさに比例し、人は賛辞や名誉にすがりつく。虚栄心の底には、自分に対する不安がある。‥‥‥自信のある人、生命に溢れ、持続する作品の創出に確かな自信をもっている人は、賛辞を求めず、名誉を越えたものを自分のうちに感じている。そのような人は、創造者であり自分が創造者であると知っている」。

    アリストテレス以来、人は「社会的動物」であるといわれますが、俗っぽい意味でも、人は、もともと他者に支えられながら生きるようにできています。人から褒められれば、嬉しくなり、人から詰られれば、辛くなります。
    しかし、ベルクソンは、そうした社会的共同性を超えて、自分のなかの、自分自身の創造性を大切にするべきだ、といっています。

    「人間の生命(vie)の存在理由は、この創造にあるのではないか、それは、芸術家や科学者の創造ではなく、すべての人がすべての時に追及できる創造ではないか、すなわち、自分による自分の創造、少ないものを多いものに、ないものをあるものに変える、世界の豊かさを増やす努力によって、人格性を気高くすることではないか」。

    ベルクソンのいう「人格性を気高くする」創造性は、「自己」の意図・思惑に支配されているのではなく、すべての人が分有している「生命」に駆動されています。この生命の次元は、社会的次元を超えています。つまり、通俗的な感情(喜・怒・哀・楽)を超えています。ベルクソンは、この生命に、本当の「道徳的地平」(plans moraux)を見いだしています。
    ベルクソンは、人間関係の煩わしさだけでなく、楽しさを超えて向かうべきところを指しています。その、いわば「生命のモラル」は、人を批判したり告発したりすることではなく、自分なりに新しい生き生きとした活動を始めることです。

教育顧問    田中智志
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